少年T

私が教師になって初めて赴任した小学校には7不思議があった。
テケテケ、夜になると目が光るベートーベンの肖像画、赤いチャンチャンコと青いチャンチャンコ、誰もいないはずの体育館からボールの弾む音がする、風が無いの揺れるブランコ、プールで泳いでいる子どもを引きずりこもうとする霊。
6つまでは私もよく聞く話だが7つ目は少し珍しいものだった。
夜、学校にいるとお化けに会う、そのお化けの姿は誰も知らない。なぜなら、そのお化けに会ったら魂を奪われてしまうからだ。
これも他の6つと同じように多感な子どもたちが信じる迷信だと思っていた。(だいたい、遭遇した人間が死ぬのなら、なぜその存在が伝わっているのだろう。)
ただ子ども達には内容のおどろおどろしさのせいか非常に恐れられていた。私もなぜだか妙にこの怪談は印象に残った。

秋も深まったある夜、私はひとり職員室に残って23時近くまで仕事をしていた。ようやく終えて帰る準備をしていると突然、内線電話が鳴り響いた。
3階にある教室からだ。ありえない、今、学校には私一人しかいないはずなのに。だれかいるの?
何が起きているのか確かめるため私は真っ暗な廊下を走りその教室へ向かった。
行ってみるとだれもいない静まりかえった教室があるだけだった。
念のため明かりをつけてみたがやはり誰もいない。機械の故障か何かかな、私はそう思い教室を後にしようとした。
すると廊下から足音が聞こえてきた。

足音からしてこの教室から少し離れたところにいるらしい。
しかしだんだんとこちらに近づいてくる。きっと不法侵入した何者かだ。急いで近くの階段を私は駆け下りた。それと同時に足音が速くなる。
逃げなきゃ、逃げなきゃそれだけを考えひたすら走った。一階に降り玄関の近くまで来る頃には足音がしなくなっていた。

振り切れたかな、そう思い走りながら後ろをみた次の瞬間、何かにぶつかり倒れてしまった。
その感触は明らかに人だった。驚き、地べたに尻餅をついたまま、前を見上げるとそこには
私が立っていた。服装も髪型も、そして顔も。恐怖とショックで呆然としている私に向かってもう一人の「私」がかがみ込み顔を近づけそして囁いた。
「ネエイノチチョウダイ イノチチョウダイ」
その時だった。
「破ア!」「はあ!」という二人の声が聞こえると同時に青白い光がもう一人の「私」をつらぬいた。「ギャアアアアアアアアア!」という獣の叫び声のような悲鳴を上げ「私」は消滅した。
「危ないところでしたね。」そういって私の前に現れたのは寺生まれのT君のお父さんだ。
「先生大丈夫?」と隣にいるその息子、そして私の生徒でもあるT君が不安そうに言った。

「奴はいわゆるドッペルゲンガーってやつの一種で姿をまねた相手の魂を持ち去ってしまうんですよ。
ただ、力が弱かったので自らの噂をばらまいてそれを聞いた子ども達の恐れという気持ちをエネルギーにして力を蓄えていやがったんだ。まったくやっかいな奴だ。
ちなみに今、隣にいる息子には退魔師として私の後を継がせるために修行させているんですよ。」
そして彼は隣にいるT君にお前の大好きな先生が助かって良かったな、と声をかけた。
Tくんは慌てふためいた様子でうるさいな、といいながら光弾を放ったが父親にはじき返されたあげく、逆に光弾で吹き飛ばされてしまった。
その後、残っている6つの不思議も彼らは退治した。

あれからもう何年も立ってしまった。
私に淡い恋心をもっていた少年はもうすっかり大人になり退魔師として活躍している。
彼が悪霊を除霊したという話を風の便りできくたびに「寺生まれってすごい」と思う。



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