マッドサイエンティストN博士

二学期が始まってから暫くして、友人のNからオカルトな相談を持ちかけられた。
お盆過ぎ辺りから、急に家の中で気配がしたり、家人がいないのにドアが急に開いたり閉じたりし始めたと言うのだ。
今週に入ってからは更にエスカレートして、ボンヤリとした人型が家の中を彷徨くようにもなったきたので、何とかしたい。
なにか、伝手はないかと言うのだ。
Nは真面目というか現物主義というか、普段はバカバカしい話には乗ってこないし、ましてやオカルトな話なんて今まで奴の口から聞いたことはない。少し天然気味だが、真面目な男だ。

自分に心当たりがあるから聞いてみる、と引き取った。その日の晩に、寺生まれのTさんにNの一件を相談してみた。
霊に関わる事に首を突っ込むとこっぴどくしかり付けられるのが常で、今回も叱られるのを覚悟していた。しかし、意外な事に今回のTさんは二つ返事でNの家への同行を承諾してくれたのだ。
「普段のおまえは好奇心から首を突っ込んで、自爆しているからな。今回も好奇心が透けて見えるが、しかし人助けでもある。
 だから今回は特別だ。しかし、―――」
出だしは良い雰囲気だったのだが、結局途中からいつも通りの展開になってしまった。とんだ藪蛇だ。

翌日の放課後、Nと共にTさんと待ち合わせる事にした。
道々、自己紹介を兼ねてNに家の状況を説明して貰った。
Nの家は、両親とNの三人暮らしで、他に兄弟はいない。父親は、かつてある程度、名の通った工学者だったそうだが、今では街の発明おじさんにまで落ちぶれてしまっていた。母親は専業。どういった繋がりなのか、時々、近所の私立高校の学生が父親の所を訪ねてくるそうだ。

まずは外からN宅を観察する。普通の建て売り住宅と言った風の平凡な家だった。
しかし、自分達には見えないが、Tさんによるとかなりの数、それも不自然なほどの霊が居るらしい。
家の中に入ると廊下や階段、浴室や洗面所、居間、寝室ありとあらゆる所に年代も性別もバラバラな自縛霊で溢れている。
現代は勿論、戦前や江戸時代の女性、戦国時代の武者まで雑多な霊がひしめいているそうだ。
「おかしい。年代もバラバラで、死因も不揃い。しかも浮遊霊ではなく自縛霊と言うのは誰かが連れてきたということか」
Tさんは、Nにむかって行っていない場所が残っていないか問いかけた。Nは少し言い淀みはしたが案外あっさりと、
あと1カ所、裏庭の父親の作業小屋が残っていると白状した。

N宅の裏庭は平凡な表と比べて異様な有様だった。
おどろどろしい。小屋の廻りには人形のような物がうち捨てられている。
裏庭の作業小屋は、Tさんによると壮観の一言に尽きる眺めだったらしい。
窓から見える小屋の中は霊でギュウギュウ詰めで、小屋に入りきれない霊で小屋の廻りも朝の通勤電車のようだと言う。
原因は、ここ以外に考えられない。その作業小屋は、普段はNも入ることを禁じられている。

意を決して三人で小屋に入る。
Nがドアノブを廻すとカギは掛かっておらずあっさりと開いた。中には中年の男性が一人、こちらに背を向けて
ドライバーを片手に作業を行っていた。
「何か用かね?」そう言って振り向いた男性はやや面長で眼鏡を掛け、口ひげを生やしている。
Nに似ている。父親だろう。
年長者と言う事でTさんが事情を説明すると、N父は小馬鹿にしたように我々をみて説教を始めた。
曰く、「この科学時代にお祓い如きで除霊される幽霊などいるものか!!」

N父は傍らに置いてあった掃除機?を手に取ると両手でノズルを腰溜に構えて見せた。
「ここはひとつ、自動亡霊掃除機、名付けて「お祓いくん」の威力というものを見せてやる!」
そう言って、掃除機の吸い込み口、T字型の床用のズルを突きつけた。
一般的な霊はこれで十分吸い込み可能だが、N父はそう言いながら違う吸い込み口に付け替えてみせた。
棚の上などの高いところの除霊にはこれを使う!更に、部屋の隅や家具の隙間に逃げ込んだ霊には―――

「どういう原理なんです?」得意げに説明するN父に、ボソッとTさんのツッコミが入る。
「なんだと?」
「どういう原理で霊を吸い込んで居るんですか?」
「そんなこと、ワシが知るか!」
「じゃぁ、どうやって設計したんですか!?」
「今時、直感でこれぐらいのものが作れんで、なーにが科学者だ!!」

漫才のような会話がTさんとN父の間で交わされる。無茶苦茶だ、この人。
息子のNは隣で頭を抱え込んでる。

「論より証拠、実際にその目で見るがいい!」
不毛な論争に苛立ったのかN父はいきなり「お祓いくん」のスイッチを入れる。
甲高いモーターの音はするが、何も起こらない。
なんとも気まずい雰囲気が流れる。

「おお、そうだ!実験で随分吸い込んだからな、目詰まりをおこしておる」

そう言うと、Tさんが止める間もなく「お祓いくん」のカバーを外して中の紙パック(?)を取り出してしまった。
その途端、0感の自分でもハッキリ判るほどの“何か”が部屋に解き放たれた。
この家の幽霊騒動の原因は、絶対この人だ。
言い様の無い脱力感に囚われる。
この場にいる、N父以外の全員がその思いを共有して言うと思う。
その証拠に、傍らのTさんも盛大な溜息を吐いた。

「……はぁ」

それでもN宅の除霊をしようと、懸命にN父への説得を続けるTさんの背中みて思った。
寺生まれってスゴイ…その時初めてそう思った。




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