僕の母

母が、洋服ダンスの前で着替えをしようとしている。僕は、それを横目でチラリと見てリビングに向かおうとした時…
『ガチャ!ギィィィ』
玄関のドアが開く音がした。
「親父かな?今日は早いな」
と思い、今いる廊下から一直線の方向にある玄関を見てみた。電灯がついてないので、暗くてよくわからないが、やはり見覚えのあるシルエットだ。
しかし、それは親父じゃなかった。小さいし、何よりも髪が長いように見えた。しかも、頭のシルエットが異様に大きい。だが、見覚えがある。ついさっき見たような気がする…
「ただいま」
前触れもなく、それは突然声をあげた。どうということはない、帰ってきたのは僕の母だった。
だが、どうも釈然としない…僕の心の声が警告をつげた‥
(何かおかしくないか?…洋服ダンスの前で着替えをしようとしてるのは僕の母じゃなかったか?!)
そうだよ!!今帰ってきたのは母じゃないんだっ!。違う何かだ!
しかし、ペタペタとゆっくりと歩いて来るそれは、明かりに近づくにつれ、無情にも僕の母以外のものの可能性を否定してゆく…
(なぜだ!?なぜ二人いる!!)
僕は心底怯えた。
(来るな!来るな!僕の母だと確認したくない!わかりたくない!!)
気付くと、それはもう目の前にいた。
温かいやさしい笑顔があった。仕事帰りで疲れているみたいだが、いつもの母だった。僕の母だ。
…!?…あ、あぁ!!新たな恐怖が僕を包んだ。
それじゃあ、着替えをしようとしてるのは一体誰なんだ!!思わず洋服ダンスの方を見てしまった。
目を限界まで開いた白い顔の母が、僕を凝視していた。人間の顔じゃなかった。
僕は叫び声をあげようとしたが、あまりの恐怖に声が出ない。
助けを求めて、本当の母に駆け寄ったが反応がない…
見上げると、目も鼻も口もついてない母の顔があった・・・

「そこまでだ」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには寺生まれで霊感の強いTさんの姿が!
「坊主、動くなよ」
Tさんが狙いを定めて「破ぁ!!」と叫ぶと、Tさんの手から青白い光弾が飛び出し
目の前に居るのっぺらぼうを消し飛ばした!
Tさんはあまりの出来事に呆然としている僕に歩み寄ると、
「もう一人居るだろ、どこだ」と言った。
そうだ!化粧台の前にもう一人居るんだ!
僕が慌ててそのことを教えようとすると、ドタドタという足音と共に
鬼の形相の化け物がこちらに向かってきた

「やれやれだ」
Tさんが両手を広げてなにやら呪文を唱えると、Tさんの手が発光し指先から輝く糸のようなものが現れた!
「母を装い幼い魂をもてあそぶ小悪魔め!」
Tさんの腕が残像を残しながら縦横無尽に動き回り、化粧台の化け物を光の糸で絡め取った!
「破ぁー!!」
Tさんが大振りに腕を捻ると光の糸が食い込み、化け物は血飛沫を上げながらバラバラの輪切りになった!!

「もう安心だぜ」
Tさんは煙草に火を点けながらそう言うと、
「男はでっかく生きろよ」と残して去っていった。

※小学生の時だったので、夢なのか現実かも覚えていないけど、とにかく寺生まれはすごいです。




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